日本技術者教育認定制度の現状と展望


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JABEE副会長 大中逸雄
(大阪産業大学工学研究科 客員教授、アイ・イー・ソリューション(株)代表取締役)

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(この解説論文は 「日本機械学会誌,104-990(2001),289」に掲載されたものを、更新したものです。)

 

1.まえがき

 21世紀の工学教育に大きな影響を与えると予想されるのが日本技術者教育認定機構(JABEE)による認定である。ここでは、技術者教育の認定の意味、現状、問題点と今後の展望などについて述べる。

2. 技術者教育および認定とは

2.1 技術者教育とは

 ここでいう「技術者教育」とは、数理科学、エンジニアリング・サイエンス、情報技術などの知識・手法を駆使し、社会や自然に対する影響を予見しながら、人類の生存・福祉・安全に必要なシステムを研究・開発・製造・運用・保全する専門職業すなわち技術業等のための高等基礎教育であり、工学教育のみならず、理学教育、農学教育などを含む幅広い概念である1)。
 我々は、人工的環境に囲まれており、「技術」の役割が今後ますます重要になること2)、および従来の「工学教育」は知識教育に偏重しているのではないかという反省から、「技術に関わる人を育てる」という視点を重視して、敢えて「技術者教育」としたものである。決して従来の狭い技術者教育ではないことに注意されたい。

2.2 認定とは

 技術者教育の認定とは、以下の二つを行い、基準を満たしている技術者教育プログラムを公表することで、そのプログラムの修了者が将来技術業等につくために必要な教育を受けていることを社会(世界)に公表することである(図1参照):

(1) 教育プログラムで技術者教育の質の保証が確実になされているかどうかの確認、すなわち、「質の保証システム」の監査(Audit)
(2) 保証されている水準が定められた認定基準以上かどうかの審査

 ここで、「教育プログラム」とは、カリキュラムのみならず、教育方法、教育設備・環境、教員、評価等を含む全教育システムで、一学科に複数存在してもかまわない。
 また、「教育の質を保証する」とは、「プログラムに関与する全ての関係者(学生を含む)が、適切な学習目標の設定やその達成に関して何をなすべきかを認識し、確実に実施し、学習目標を達成した学生のみを卒業させ、さらに学習目標とその達成度のレベルを継続的に向上させていること」である。
 ここで、「適切な学習目標」は、学問的水準、社会の期待、学生の希望、雇用者の要求、専門職の要求等種々の要求(水準も含む)を考慮して教育側で決定すべきものである。
 質の保証(Quality assurance)は、関係者の全てが、本当に何をすべきかを認識し、なすべきことを確実に実施し、かつ継続的に改善していかなければ達成できない。教育プログラムにおける質の保証は教育機関でなければできないし、義務と考えるのが、世界の動向である。

3.JABEEの目的および基本思想

 JABEEは1999年11月19日に吉川弘之日本工学教育協会長を会長、主要学協会会長を理事、関連学協会を正会員として発足した。現在は任意団体であり、なるべく早く法人化する予定であったが、公益法人改革が進められる中、社団法人の新設が抑制されている。

3.1 目的

 JABEEの目的は、定款3条にあるように、「統一的基準に基づいて高等教育機関における技術者教育プログラムの認定を行い、その国際的な同等性を確保するとともに、技術者教育の向上と国際的に通用する技術者の育成を通じて社会と産業の発展に寄与すること」である。
 具体的には、以下を含む。

(1) 認定審査を実施し、認定されたプログラムを世界に公表する。
(2) 優れた教育方法の導入を促進する。
(3) 認定を通じて技術者教育の評価方法を発展させると共に、評価に関する専門家を育成する。
(4) 教育活動に対する組織の責任と個人の役割を明確にすると共に、教員の教育に対する貢献を評価する。
(5) ワシントン協定(後述)に加盟する。

 なお、認定を受けたプログラムの修了者は国家資格である技術士の1次試験を免除される。
要するにプロ意識を持った多くの優れた技術者の育成に寄与するのが目的とも言える。

3.2 基本思想

 JABEEのシステムは、以下の基本思想に基づいて設計されている。審査等で問題が生じた時には、この基本思想に立ち返って判断することになる:

 (1) 大学の独自性・多様性・革新の障害にならないこと。
 (2) 強制ではなく、当該学科・専攻・コース等の希望により実施すること。
 (3) 認定基準やプロセスが公表されること(透明性の確保)。
 (4) 権威ある中立的第三者評価であること。
 (5) 認定されたプログラムを公表すること。
 (6) 認定には有効期限があること。
 (7) 公正な一貫性のある評価であること。
 (8) 日本に適したシステムであること。
 (9) 無用の仕事を作らず、なるべく費用をかけないこと。
 (10) 本システム自体も周期的に評価して見直すこと。  

4. 認定基準および審査の基本方針と要点

4.1 認定基準3)

 認定基準は下記のようにPlan,Do,Check,Actの順となっている。分野別要件は、主に基準1を補足して、その分野で最小限身につけるべき専門的内容を要求している。

基準1:学習・教育目標 Plan
基準2:学習・教育の量
基準3:教育手段(入学者選抜方法、教育方法、教育組織) Do
基準4:教育環境(施設・設備、財源、学生への支援体制)
基準5:学習・教育目標の達成 Check
基準6:教育改善(教育点検システム、継続的改善) Act
分野別要件

 表1は基準1の重要な内容を示しており、各プログラムでは少なくとも(a)-(h)に対して具体的で適切な学習・教育目標を設定し、学生のみならず社会に公開しなければならない。

4.2 審査の基本方針と要点1,4)

 前述のように、認定では、教育プログラムというシステムの内容と質の保証が確実に実施されているか、また、その水準は認定基準で要求されているもの以上かどうかを審査する。

(1) 審査は、同一審査員チーム(人数は通常3名程度で産業界委員を含む)で実施する。

(2) 認定を受けるにはプログラム修了者の全てが少なくとも基準1の内容を含む、各プログラムで保証する全ての学習・教育目標を達成していることが必要である。

(3) 審査のポイントは、基準1,2と分野別要件、基準5,6の学習目標達成の評価・証明と継続的改善を満たしているという教育プログラム側の証明が妥当かどうかである。

すなわち、

・社会的ニーズを考慮した具体的な学習・教育目標が設定(基準1および分野別要件で要求されている基準を含む)されているか。
・学習・教育目標達成の評価方法は妥当か、水準は国際的水準以上か。
・上記の評価が確実に実施されているか。
・継続的教育改善を実施する組織が存在し、機能しているか。

(4) 基準1および分野別要件を満たす最低水準は、各プログラムで社会(産業界、卒業生、その他)のニーズと学生の資質等を考慮して設定・明示する。そして、修了者がその水準を超えていることをプログラム側が証明しなければならない。審査員はその最低水準と証明が国際的に妥当かどうかを判断する(図2参照)。
 なお、プログラム側はその最低水準の設定根拠を審査員に説明できねばならない。各教員が最低水準を十分に認識し、その水準以上の学生を合格させていなければ質の保証はできないはずである。また、公表している水準が例え、国際的最低水準よりかなり上であっても、その水準に達成していない学生を修了生としている場合には認定されない。

(5) 教育内容(カリキュラム)の提示だけでは、基準を満たした証拠にはならない。例えば、試験で証明する場合には少なくとも試験問題と最低水準の解答や、レポート等の証拠提示が必要である。

(6) 編入学などにおいては、編入生が他の学生と実質的に同等であることを、プログラム側で証明することが必要である。制度的に編入学が可能というだけでなく、国際的に通用する具体的証明が必要である。

(7) 他大学の講義や遠隔教育を受けた場合もその合格水準が、各プログラムにおける最低水準以上かどうかを各プログラムで判断し、その妥当性を審査員に説明できねばならない。

(8) 基準1の(a), (b) (表1)などは、これらの専門家が教育することが望ましいが、専門家でなくても良い。 人文社会学や倫理の専門家を養成するのではなく、常識的な教育、能力を要求している。講義で単に知識を与えるのではなく、学生自身に考えさせたり、応用させる機会を与えることが重要である。なお、基準1の(a)は従来の教養教育の一部を含んでも良い。

(9) 基準で要求されているものは知識のみならず能力である。
 従来の講義主体の教育方法だけで知識を身につけさせるのは困難であり、一方的な講義ではなく、学生が能動的に学習する環境を与える必要がある。
 特に、真の知識獲得には「具体的体験、注意深い観察・熟考、抽象的概念化、積極的体験」のサイクルが必要であることを認識して、講義以外の演習、実験等を増やして、このサイクルを体験させることが望まれる。このためには従来の講義を減らすことも必要である。
 特に、能力の養成には、その能力を身につける必要性の自覚と発揮してみる機会を学生に与えることが重要であり、「チームでプロジェクトを実施させることで学習させる」Project-Based Learning(PBL)など新しい教育方法の導入が望まれる。ガリレオは、「教えることはできない、学生が学ぶのを手伝うことはできる」と言ったそうである。少なくとも、教員には講義だけでなく、学生の学習を助けるコーチ的役割も要求される5,6)

5. 現状と問題点

 2001年度に3プログラムを認定したのを初めとして2002,2003年度には夫々32,67のプログラムを認定した。2004年度には約80のプログラムの審査を実施している。JABEE認定プログラム修了生も2004年度には1万人を超える。審査員も毎年養成しており現在約1000人の審査員資格者がいる。
 さらに2001年にはワシントン協定7)への暫定会員となり、本年(2005年)6月の総会における投票で正会員となる可能性が非常に高い。このワシントン協定は、工学教育を含む技術者教育を国際的に相互承認するもので、現在、米国、英国、カナダ、豪州、ニュージーランド、アイルランド、香港、南アフリカの各認定機関が正会員、日本、ドイツ、マレーシア、シンガポールの各認定機関が暫定会員となっている。また、韓国その他が加盟すべく準備中である。
 このようにほぼ順調に日本で初めての専門認定の制度7)が定着しつつある。しかし、下記のような懸念事項があり、さらに改善していく必要がある。

5.1 画一化を助長し個性化への妨げとなる懸念がある

 基準、特に分野別要件が教育の画一化をもたらし、また個性化や教育改革の妨げとなるという意見がある。もし、実際にそのような場合があるとすれば、これは、前述の基本方針に反することであり早急に是正しなければならない。
 基準1では、プログラム独自の学習・教育目標を設定することを要求しており、要求している知識・能力も国際的に整合性のあるものであるから、この点からは問題は少ないはずである。最も懸念されるのは、分野が従来の学問・技術分野となっており、新たな分野や融合的分野が排除されるのではないかということである。
 しかし、従来分野でもカリキュラムへの要求は必要最小限としているし、工学(融合複合・新規領域)関連分野を設けており、かなり対応できるはずである。もし、これらで対応できない場合には、早急に基準等を見直すことになる。また、分野によってはカリキュラムへの要求が必要以上に厳しいという批判もある。これが、本当に問題であれば、早急に是正しなければならない。
 しかし、詳細に検討した結果ではなく、単に印象で「JABEEの基準は従来分野を固定するものである」と批判する人も少なくない。また、現在進行している、あるいは指向している新プログラムが国際的に通用するのか、本当の教育改善・改革ではなく単なる組織いじりになってはいないか、という検討も必要である。後述のように産業界の一番大きな不満は、基礎学力や問題設定力が不足している指示待ち型の卒業生が多いことである8,9)。従来の学科改組等はこれらの不満に答えているであろうか。
 さらに、個性化したとしても本質的に良い教育でなければ意味がない。特色ある大学と文部科学省などで評価されたからと言って、本当に良い教育になっているという保証はない。また、現状の分野別要件に当てはまらないプログラムが例え存在したとしてもそれは少数であり、多くのプログラムは該当するはずである。
 いずれにしても本当に問題となる点を明確にする必要がある。

5.2 有名大学の認定プログラムが少ない

 現在、北海道大学、東北大学、東京工業大学、慶應義塾大学、早稲田大学、名古屋大学などの一部のプログラムが認定されているが、東京大学、京都大学、大阪大学、九州大学などではまだ認定プログラムがない。JABEEの産業諮問委員会からは、これらの大学のプログラムが少ないのは問題であると指摘されている。
 認定の申請が少ない理由としては、良い教育を実施しているという自負の他に、大学法人化、教育改革、研究費増大等による研究活動の増大、大学評価・学位授与機構による評価など種々の評価があり対応が困難、JABEEの認定基準は最低レベルの保証という誤解等種々考えられる。しかし、大学法人化等は認定プログラムの多い他の国立大学でも同じであり、教育の程度も一流大学だから格段に良いという訳でもない。一番の違いは教員の危機意識の差である。現状では認定を受けなくても良い学生が集まり、就職もあまり心配ないのだから無理もない。
 しかし、社会は変わりつつあり、これらの大学も変わらざるを得ないであろう。上記の大学関係者の多くがJABEEの活動に積極的に参加しているのもその必要性を認識しているからである。少なくとも、第三者の評価により質の保証が確認されていなければ国際的に一流大学とは言えないのが世界の動向であることをより多くの教員が認識すべきである。

5.3 産業界におけるJABEE認知度が低い

 残念ながらJABEEを知らない企業が多いのは事実である。これは歴史が浅いため当然でもあるが、上記の有名大学における認定プログラム数が少ないこと、大学院認定がないこと(大企業では修士修了生の採用が多い)、就職活動が早く認定プログラム修了生かどうかが分からないことなども関係している。
 しかし、いづれにしても産業界での認識を深める必要があり、日本経団連と共催でシンポジュウムを開催するなどの努力をしているが、今後JABEEニュースを多くの企業に定期的に配布するなど一層の広報活動が必要である。
 また、認定プログラム修了者数も今後非常に増えると予想されるので、就職活動を通じ認知度は上がっていくものと期待される(学生が認定プログラムで学習している旨自ら名乗ることと、経団連からも会員企業に質問するように依頼してもらうことになっている)。

5.4 大学院プログラムの認定がない

 大企業では企業によっては80%以上が修士修了生であり、修士プログラムの認定希望が強い。また、建築分野では、大学院プログラムの認定制度がないと国際的職業資格を得るのが困難となりつつある。さらに、より重要なことは、大学院修了生のレベルが低下している恐れがあることである10,11。従って、JABEEでも大学院プログラムの認定について検討しているが、以下のような問題がある。
(1) 審査を担当する学協会は学部認定で手一杯であり、大学院プログラムの審査まで実施するのは容易でない。
(2) 大学も学部認定その他で忙しいのでどの程度希望するか不明である。
(3) ワシントン協定では学部プログラムの認定が主になっているため、国際的同等性というメリットが少ない。
 一方、ヨーロッパ大陸では、従来の5年制ディプロム制から学士3年、修士2年の2サイクル制に移行しつつあり、認定制度(質の保証制度)も学士だけでなく修士にも要求している。なお、この基準案が公表されている12。  従って、JABEEとしては少なくとも建築分野は大学院認定を実施し、他の分野に関しては状況が許せばなるべく早く実施できるように現在認定基準を作成している段階である。この場合の基本的思想としては以下の通りである:
(1) 大学院(修士課程)と学部認定は別とする。
 ABET(米国の認定組織、Accreditation Board for Engineering Education)では学部レベルか修士レベルかどちらか一方しか認定されない。しかし、日本では、両方認定することにする。これは、日本ではまだ学部認定数も十分ではなく、学生の流動性を促進するためにも、学部認定と修士認定は別にした方が望ましいと判断されるからである。ただし、当然、学部、修士の両方の認定を受けるのが望ましく、同時に受審する場合には、審査方法等の合理化で余分な労力を減らす工夫が必要である。
(2) 分野別要件は特殊な場合を除き設定せず、教育側の自由度を確保する。
 大学院教育では学部以上に分野の概念が少なく変化も早い傾向にある。このため、建築などのように国際的な合意がある場合を除き、分野別要件は設定しない。

5.5 認定効果への懸念があるー産業界から期待される学生が本当に輩出しているのか?

 認定を受けたプログラムからは、教員の教育に対する認識が深まった、学生の勉学意欲が増した、などの良い効果が報告されているが、一方では、学生に認定のメリットを説明するのに苦労するという意見が多い。また、産業界からは、認定プログラム修了者は学習・教育目標の達成が本当に保証されているのか、産業界に入った後の活躍はどうか、などの質問が多い。
 認定の就職に際しての利点は、産業界の認識と卒業後の産業界での活躍の程度と関連しており、鶏と卵のような関係であるが、修了生が出てまだ2,3年であるから評価にはもう少し時間が必要である。
 いずれにしても、各プログラムにおいて社会での修了生の活躍状況も把握して学習・教育目標および教育プロセスを改善していくことを基準としても要求していることを忘れてはならない。しかし、数年後にはJABEE認定の効果についての(JABEEのあり方を含め)調査と自己点検、第三者評価と改善がJABEEにも求められている。
 なお、ABETでは昨年、これまでの新認定基準による効果(影響度)を調査し、カリキュラム編成にかなりの良い影響があったと評価している。ただし、修了生の質的向上が見られたかどうかについては評価も容易でなく調査していないようだ(これは各プログラムで調査すべき事項になっている)。
 一方、筆者の個人的関心としては、認定が本質的教育改善に結びついているかどうかがより気になっている。産業界は、確実な基礎学力、問題設定力、創造性、コミュニケーション力、デザイン力(後述)などの教育を望んでいる。ここで基礎学力とは何かが問題になるが、これは卒業生が活躍する場でかなり変化するものの、それほど多くの事項ではない。詳しく論じる余裕はないが、単に講義するだけでなく、演習と応用問題に当たらせ確実に自分のものとさせると同時に自己学習能力を身につけさせる必要がある。このためには、学生の気質(今何のために学習するかを良く理解させないと学習意欲がでない)も考慮して、従来型の教育(週10科目以上の講義主体の授業が主)を抜本的に見直す必要があると思っている(抜本的に見直さないと認定されないという意味ではない。これはあくまで筆者の個人的意見であるが、国際的流れである)。しかし、このような動きはあまり目立っていない。今後、継続的改善を通じて、改革されることを期待する。そうでなければ、教育の国際競争に敗北するであろう。

5.6 デザイン教育への懸念がある

 基準1でデザイン能力を要求しているが、ワシントン協定査察員(2005年6月の総会でJABEEを正会員とするかどうかの重要判断資料となる報告書を作成するためワシントン協定正会員組織から3人の査察員が派遣された)から、JABEEの審査におけるデザイン教育への取り組みに懸念が示された。
 確かに、ワシントン協定加盟国では、エンジニアリング・デザイン(これをJABEEでは「デザイン」と呼んでいる。これは従来の設計教育が製図教育に偏り過ぎている点を問題としたためである)が、サイエンス等と区別する最大の特徴であるとして、その教育に力を入れている。一方、日本では、むしろ卒業研究に力を入れているという印象が強いのも事実である。
 そこで、2004年12月に東京で、エンジニアリング・デザインに関する国際シンポジュウムを開催し、そこでの各国からの報告と討論13)を踏まえて、JABEEの認定・審査の手順と方法(これは基準に準じる重要なガイドである)の一部を下記のように修正した。
(i) 「デザイン」とは,単なる設計図面制作ではなく,「必ずしも解が一つでない課題に対して,種々の学問・技術を統合して,実現可能な解を見つけ出していくこと。」であり,そのために必要な能力が「デザイン能力」である。デザイン教育は技術者教育を特徴づける最も重要なものであり,対象とする課題はハードウエアでもソフトウエア(システムを含む)でも構わない。
(ii) デザイン能力には,次のような能力が含まれる。

・構想力
・問題設定力
・種々の学問,技術の総合応用能力
・創造力
・公衆の健康・安全,文化,経済,環境,倫理等の観点から問題点を認識する能力,およびこれらの問題点等から生じる制約条件下で解を見出す能力
・構想したものを図,文章,式,プログラム等で表現する能力
・コミュニケーション能力
・チームワーク力
・継続的に計画し,実施する能力など

 すなわち,デザイン能力には,技術者教育の成果として求められる能力の全てが関わっているが,これらの能力のうち,最小限どの程度の能力を身に着けさせるかについて,学習・教育目標として具体的に設定されているか,また,それが分野のデザイン能力として相応しいものかどうかを審査する。その際,上記のデザイン能力が,基準1(1)の他の項目((e)を除く(a)-(h)の項目)に対して設定された学習・教育目標に含まれている場合には,それも考慮して適切かどうかを判断する。
 従って、今後デザイン能力に関する審査がより注意深く行われることになる。

5.7 認定の最低水準が明確でない

 前述のように、各プログラムにおける水準は各プログラムで決定し、審査員はそれが妥当かどうかを判定することにしている。しかし、これでは審査員の任意性がでるので、統一的最低水準をJABEEで決定すべきであると意見がある。
 統一基準として、例えば、米国のFE (Fundamentals of Engineering) 試験を基準とする意見がある。しかし、米国でもFE試験を最低水準とは見なしていない。認定の歴史が古い米国や英国、その他の国にも明確な水準の記述はない。
 また、教育として知識のみならずコミュニケーション能力や技術者倫理等の人間教育をも要求しているが、評価方法自体がまだ明確でない。統一水準を設けることは容易なことではなく、安易に設けてはその弊害も生じる。当面は、種々の評価経験を積むべきである。
 しかし、各プログラム側では、ある最低水準を設定しなければ、学生が学習目標を達成したかどうかの判定はできない。この水準は、2.2および4.2(4)で述べたように、社会や教育機関の置かれた立場を考慮し、さらに国内外の教育の実態(教育や評価方法、試験問題とその解答、レポート、卒業研究論文の質など)を調べて決定すべきである。FE試験問題もこれらの資料の一つにしか過ぎない。
 また、審査員の主観で審査結果が変わらないよう、JABEEとしても審査結果の評価を関係学協会と十分協議する他、審査員の研修等で審査員の質を上げる必要がある。
 いずれにしても、教育の「めきき」を増やす努力が必要であるし、JABEEは単なる筆記試験以上の評価を期待していることをご理解頂きたい。

5.8 学習・教育目標達成の評価方法が明確でない

 プログラム側では各プログラムの学習・教育目標を全ての修了者が達成していることを審査員に示さねばならない。この方法をJABEEが示すべきだという要求がある。しかし、これは教育側の責任である。また、ABETでは審査員はかならずしも評価の専門家である必要はないとしている。
 この理由は、教育方法とその評価方法は本来「対」となっているものであり、教育と密接な関係があり、その開発は教育側の責任であるからである。従来、この評価方法について我々はあまりにも無関心過ぎた。米国では評価方法に関するワークショップ等が盛んに開催され、改善・発展の努力がなされている。
 評価は容易ではなく、誤差を伴う永遠の課題である。しかし、難しいといって避けていたのでは、教育を進歩させることは困難である。困難であっても努力して進歩させねばならない。
 なお、評価が困難な大きな理由の一つとして設定されている学習・教育目標が曖昧であるということが挙げられる。例えば、「コミュニケーション能力」だけでは評価困難である。いかなることができるようになるのか、いかなる状態になるのか具体的な目標を設定することがまず必要である。

5.9 審査が証拠主義で受審準備に時間がかかり過ぎる、また、他の機関による評価もある

 確かに、審査ではプログラム側の主張にはその裏づけとなる証拠が要求される。これはある程度止むを得ないことである。しかし、過度の証拠主義は当然避けねばならない。状況から明瞭に信用できる場合には必ずしも物的証拠がなくても良い場合もあるであろう。今後事例を集めて審査方法の改善、審査員の質の向上に努力せねばならない。
 また、全ての公的機関は外部評価を義務付けられている。このため、大学評価・学位授与機構や大学基準協会等からも評価を受けねばならない。しかし、これらは基本的には、学部全体あるいは大学全体の機関評価であり、JABEEのような専門評価ではない7)。従って個々のプログラムを詳しく評価することは困難である。とは言いながら、個々のプログラムも評価しないと全体の評価も困難である。従って、理想的にはJABEEのような専門評価とその他の機関評価を相互補完的に利用することが望ましい。実際、米国等ではそのようなシステムになっている。日本でもそのようになることを期待し、可能な範囲でJABEEも努力する予定である。少なくとも、実務として重複する部分は、今後調整したい。

5.10国際的に通用しにくいプログラム名称が少なくない

 ワシントン協定加盟国の多くではプログラム名にEngineeringがないと認定審査対象外となる。一方、日本では高校生に好印象を与えるという理由で、プログラム名を決めることがあり、教育内容が理解し難い場合が少なくない(また、工学部でありながら「・・科学」という名称も少なくない。)。このような名称では国際的には通用しないし、社会にとっても不便であることを教育関係者は自覚すべきである。

6. あとがき

 以上、JABEEの現状、課題等について説明した。この他、文献14にも、JABEEの最近の情報が詳細に述べられているので参照されたい。
 JABEEの活動等を通じて、教育の質の保証という概念、特に、学習目標の設定と学習目標を達成した学生のみを卒業させるのが当然という認識がある程度出てきたが、まだ十分ではない。
 完全な制度の実現にはまだまだ時間がかかる。しかし、困難であっても実行しなければ、いつまでたっても改善はなされないであろう。また、まず経験して、失敗から学ぶべきである。ABETでは、Mark Twain のGood judgment comes from experience. And where does experience come from? Experience comes from bad judgment. を引用している。
 認定制度が単なる規制ではなく、21世紀における技術者あるいは工学教育の真の向上に役立つことを切に祈るものである。このためには、JABEE、教育機関、専門学協会、産業界間の協力、特に教育機関と学生・父兄の意識改革が必要である。
 最後になったが、ご協力いただいている関係各位に心からお礼申し上げる。

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文献

1) http://www.jabee.org/ 、認定、「認定・審査の手順と方法」
2) 同上、JABEEとは、"会長からのメッセージ"
3) 同上、認定、「認定基準」
4) 大中逸雄:日本技術者教育認定基準の要点と教育の改善、工学教育、48-1(2000)21
5) 学術会議第 工学教育研究連絡委員会報告書、「グローバル時代における工学教育」、(2000.6)
6) 大中逸雄:工学・技術者教育のパラダイム・シフト、学術の動向、Vol. 6, (2001)7, 33
7) http://www.jabee.org/ 、JABEEとは"JABEEの理解を深めるために(大橋)"
8) 技術人材委員会調査研究報告書、財団法人研究産業協会、平成14年3月
9) 2003年1月実施日本経団連産学官連携推進部会アンケート調査結果
10)学術会議 工学教育研究連絡委員会報告書、「グローバル時代における工学系大学院教育」、(2003.7)
11) 大中逸雄、工学系大学院における教育改革、工学教育、52(2004)3, 17
12) http://www.feani.org/EUR_ACE/Private Section/Documents/EUR-ACE_StandardsProcedures_TestingVersion_2004-12-13.pdf
13) http://www.jabee.org/、ニュース、JABEE国際シンポジウム開催 「技術者教育とエンジニアリング」
14) 篠田庄司:JABEEにおける最新の動きー今何が問題となっているかー、電子情報通信学会誌、87(2004)12,1077

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