JABEEの新時代に向けて

JABEE会長 有信 睦弘(ありのぶ むつひろ)

写真:JABEE会長 有信睦弘(ありのぶむつひろ)

2013年5月27日の理事会で木村孟前会長の後任として第4代会長に選任されました。

私とJABEEとの関わりは、機械学会の側で分野別認定基準作成の議論に加わるとともに、JABEEの認定試行と正式認定を審査員、審査長として実施したことが始まりだったと思います。当時は全国の機械系学科の教育プログラムの調査が行われましたし、学会の中で教育認定の在り方について相当真剣に議論された記憶があります。機械学会の総会や、全国大会では、教育認定の正しい理解と促進のためのシンポジウムが開催されました。他の学会でも機械学会と同様の真剣な議論と啓蒙が行われたと聞いています。JABEEが現在の形で認定を進めることができるようになるまでには、主要学会の積極的な活動と学会事務方の多大な努力があったことを忘れることはできません。もう一度JABEE設立当初の関連学会の努力と、推進した方々の熱意を思い起こす必要があるように思います。

GATTがWTOに移行した時に、ものの移動だけでなく人が提供するサービスも協議対象となり、各国の職業資格Professional Qualificationを相互に承認し合う枠組みが確認されました。技術者資格に関しては直ちにNAFTA、APECで共通資格の枠組みが作られました。欧米先進国をはじめ、諸外国ではProfessional Qualificationを受けるには、それぞれの専門性に対する教育・訓練が要求されます。技術者資格も例外ではなく、APEC Engineerの要件には「認定もしくは承認された教育プログラムを修了していること」という学歴要件が盛り込まれています。職業資格が相互承認されるためには、その前提となる教育プログラムの相互の同等性が不可欠になります。教育プログラムの同等性を保証するのは、教育プログラム認定の実質的同等性(Substantial Equivalency)です。JABEEが加盟しているWashington Accordは実質的に同等な技術者教育認定を行う団体で構成されており、従って加盟国の認定プログラムの実質的同等性が相互に認められるということになります。専門資格の要件となる教育は、社会の要求に応える専門家を育てるものでなければならないという観点での教育内容と、教育システムに不断の改善の仕組みが埋め込まれているかという観点の双方で認定が行われることにより教育の全体的な改善が進められます。

第二次世界大戦後の民主化の平等性の主張の中で、日本では実力主義という建前の下で学歴や資格による様々な「区別」が「差別である」と混同され潜在化させられてしまったように思えます。戦後の復興期の中では、大学で教える知識そのものよりも、先進国の知識を理解し翻案する能力が重要だったために、教育機関の教育内容よりも学生の選別の在り方の方が重要視されました。少なくない大学がこのような企業の期待に応えてきたように思います。このような「実力主義」の限界は日本が先進国の後追いから脱する頃から顕在化し始め、企業の大学教育への要求も徐々に変化しています。更に、大企業の中には国内雇用を縮小しながら海外雇用を拡大するとともに、国内でも外国人の採用を増やすところが多くなってきています。今までのように外国人と日本人を分けて人事管理するやり方はグローバル化の進展の中で不可能になりつつあります。学歴や資格での「区別」が当たり前の外国人と「建前の実力主義」の日本人が同等に処遇されることが期待できるでしょうか。

2013年6月に、IEA(International Engineering Alliance)総会とSeoul Accord総会に出席しました。IEAは技術者教育認定団体と技術士団体で構成され、国際的な技術者の流動性を含めた議論をしています。技術者についても、Engineer、Technologist、Technicianとカテゴリーを分ける考え方が共通化されつつあり、それぞれのカテゴリーに応じた教育プログラムの認定の同等性を、Washington Accord、Sydney Accord、Dublin Accordの3つの協定ではかろうとしています。PEJ(法改正後の技術士)以外の技術者専門資格を持たない我が国にとって、将来このようなカテゴリーで専門的職業人の受け入れることに問題が出てくる可能性が大きいと思います。また、Seoul Accordは計算科学やソフトウェアに関する情報専門系教育プログラムの国際的同等性を確保するための協定ですが、JABEE認定プログラムが一桁であるのに対して300~400のプログラム認定を行っている国々があります。この分野でのProfessional Qualificationが国際的に様々な資格に分散しているという問題はありますが、計算科学の基本科目については情報科学(工学)科以外でも標準的に教えているところは我が国でも増えつつあると聞いています。これからの技術がいわゆるITを抜きには考えられないということを考えると、日本としてSeoul Accord への対応を明確にすべき時でしょう。

日本の科学技術が世界を圧倒していれば、日本流が世界標準になることもあり得るでしょう。しかし、現実はどうでしょうか。中国や韓国、うっかりすると東南アジアの国々が迫っています。IEAの会議で積極的に発言していたのが南アフリカ代表のアフリカ人だったことも印象的でした。グローバル化を世界規模でのDiversityという視点でとらえる必要があることを実感させられました。国際的同等性の確保というJABEEの主張は、「オオカミ少年」と見なされてきたことは否めません。しかし、今や、「オオカミ」が現実に見えつつあります。JABEEの責任は益々大きくなっています。関連学会と緊密に連携しながら、新しい時代を乗り切っていかなければなりません。微力ながら会長として全力を尽くしたいと思います。